あなたの母語で、子どもに話しかけて

日本で子育てをしているお母さんたちとの関わりのなかで、子どもの言葉の遅れを心配する声を聞くことがあります。自治体の発達相談につないだものの、「家庭でも日本語で話してあげてくださいね」と助言を受け、戸惑う姿を目の当たりにすることもありました。子どもはやがて学校に通うようになり、素晴らしい順応力で流暢な日本語を話しますが、学習では必ずと言っていいほど言語の壁にぶつかります。

多文化・多言語環境で育つ子どもの発達については情報が限られ、誰に助言を求めたらいいのだろうと模索していました。そんなとき、NPO法人HATI JAPAN代表・臨床心理士の東谷知佐子先生に出会い、お話を聞く機会がありました。

東谷先生からのメッセージのなかで、何よりも心強く感じ、悩んでいる親御さんに伝えたいと思ったのは、「親にとっての母語(一番思いが伝えられる言語)で、子どもと話してあげてください」という言葉です。たとえば『たのしい』という言葉が出るまでには、その言葉が使われた場面の記憶の蓄積がある。言葉になる前の感覚に言葉を乗せていくことで感情が育ち、表現できるようになる。親にとっての母語だからこそ、考えるための概念を伝えることができ、概念が育つことで他言語の言葉もそこに乗せていくことができます。

日本で育ち話し言葉として日本語は獲得している子どもたちが、学習の場で漢字や抽象的な言葉に苦労している姿を思うと、それはとても腹落ちする考え方でした。

移住者の多い国では、複数言語環境の中で成長する子どもが親から受け継いだ言葉という意味でHeritage Languageという言葉が生まれ、日本でも「継承語」と訳されています*。親と子どもが関係を紡いでいくためにも、継承語は鍵になります。まずはシンプルに周りの大人がその大切さを知ることで、子どもが自身のルーツに誇りをもてるようになり、親の戸惑いや不安も和らげることができる。継承語、つまり親にとっての母語での会話は、子どもの情緒や思考力だけでなく、子どもと親の絆も育む大切な時間となります。

今回お話を伺った東谷先生は、11月27日(土)のISSJ主催オンラインセミナー「外国にルーツのある子どもの発達に関する相談支援」に登壇されます。ご関心ある方は、是非ご参加ください!(重藤)

*近藤ブラウン妃美・坂本光代・西川朋美 編「親と子をつなぐ継承語教育 日本・外国にルーツを持つ子ども」くろしお出版2019