ハーグ条約と国際的児童奪取セミナーに参加して
Hague Convention & International Child Abduction

 

 ISSJ ソーシャルワーカー

2005年12月3日にカナダ大使館で開催されたハーグ条約と国際児童奪取セミナーに参加しました。Tokyo Consular and Administrative Corps主催のもと、当セミナーにおいてハーグ条約と親による実子の国際的な奪取に関する諸問題がディスカッションされました。

日本人の親による実子の国際的な奪取とは、たとえば、国際結婚をして外国に住み、現地で生まれた子どもとともに生活している夫婦が離婚をした際に、日本人でない親がその子どもの親権を持っているのに、日本人の親がその子どもを連れて日本に移り、そのまま日本で暮らす行為です。こうしたケースは、ハーグ条約に反しており、批准国においては法律違反行為となります。一方で、日本はハーグ条約に批准しておらず、現行の日本国内の司法・行政の制度や方針に従って対応します。その結果、たとえ子どもの出生国では日本人ではない親に親権があり、奪取した日本人親に逮捕状がでているような場合であっても、外国人親が日本にいる子どもを出生国に連れ戻すことは非常に難しくなります。日本人親による実子の国際的奪取の件数は増加していて、日本は国際的奪取をする親の“安全な避難場所”と諸外国から非難を受けています。

こうした背景のなか、親による実子の国際的奪取に関する諸問題に対する情報交換を行い、日本の行政が児童の国際的奪取に取り組むように働きかけることを目指して、このセミナーが開催されました。フロアは30カ国以上からの領事官や外交官、NGO等のスタッフ、日本政府の職員、弁護士、精神保健の専門家、当事者らに加え、日本のマスコミ関係者で埋め尽くされました。

パネルディスカッションに先立ちアメリカ領事副書記官のハーティー女史は、アメリカから他国へ奪取されているケースでは、アジアのなかで日本が圧倒的に多く、現在アメリカから日本への奪取は約20ケースあると述べました。パネルディスカッションでは4人のパネリスト−日本においてこの問題に取り組むNGOのスタッフ、当事者(子どもを日本人女性に奪取された外国人男性)、心理学者、弁護士−それぞれの立場で発表があり、その後フロアの参加者との活発なディスカッションが展開されました。ディスカッションを通してハーグ条約を批准しない日本の行政方針および奪取した日本人に有利な裁量をくだす司法システムを疑問視する意見が占めました。国連の常任理事国入りを目指す日本がハーグ条約を批准しないこと、日本からハーグ条約に批准した国に子どもが奪取されるケースでは、奪取された日本人はハーグ条約によって子どもを取り戻しやすいという不公平さ、そして日本へ奪取された子どもに対する救済手段がないために、外国の司法当局は現地の日本人に親権を与えること、にますます慎重になり得ることなどが指摘されました。

また、奪取された子どもは会えなくなった親の存在がタブーとされる抑圧された環境下に置かれ、かつ出生国の民族的・文化的アイデンティティーの発達が阻害されるといった子どもの心理的発達に与えうる影響も問題視され、日本の司法システムにおいてこうした子どもの心理面がどの程度考慮されているのか議論されました。

こうした国際的奪取が日本で起こりうる背景には、日本と欧米の家族観・離婚観の違いが大きく寄与していることも取り上げられました。離婚後でも親権の有無に関わらず実父母が子どもの養育に積極的に関わりがちな欧米の文化に対して、日本では離婚後は親権を持たない実親はもはや子どもの家族ではなく、その後の家族のためにもむしろ消極的な関わりが良しとされやすいのです。こうした文化的背景もあり、日本はハーグ条約の批准に対して慎重になり、時間を要するであろうと論じられました。

ハーグ条約をはじめ国際結婚・離婚について多くを学ぶことができ、この機会をいただいたことを嬉しく思います。また、このセミナーを通して多様な専門分野で国際的奪取に取り組む組織とのネットワークが広がったことは、ISSJのこれからのソーシャルワーク活動にとってとても貴重なものになると確信いたします。